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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

軍用列車が目立ってくる

               ≪九月二十一日≫    -壱-

  午前8時、Venusホテルを出て、歩いて駅へ向かう。
 ここラホールも以前はパキスタンの首都だったらしい、なかなか活気に満ち溢れた街だ。
 今では国境の街として、関所の役割を果していると言う。
 という事はイコール、兵士の数が多いという事だ。

 ネパール・インドで忘れられていた日本製品が、ここパキスタンで再び蘇って来ている。
 インドと仲が悪いという事で、日本製品がインド製品に代わって良く使われているようだ。
 また、学割を使おうと思い、事務所を探すがなかなか見つからない。
 それもそのはず、プラットホームの端からまだ離れた所に、それらしくない建物の中に事務所があったからだ。

 事務所に入り、簡単な書類に文字を埋めて、渡された書類を持って駅に戻り(この往復が大変だ。どこかの国と違い、荷物をコインロッカーに預けてという訳にいかないから、重たい荷物を担いで、遠い事務所から駅まで歩かなくてはならない。)、Booking Officeにて、2Class(二等室)を一枚購入する事に成功した。
 ラホール~ペシャワール間が、15.1Rp(515円)也。

 パキスタンでは、まだ1~3等車が存在していた。
 4番線にて、九時十五分発の列車を待つ間に、朝食(1Rp≒34円)をとったり、珍しい指輪とか腕輪などをニ、三購入してしまった。
 また無駄遣いをしてしまった。
 なぜならこれら土産物は、あまり日本に到着していなかったからだ。
 高い切手代を払って船便で郵送するのだが、これがほとんど着いていないと言う結果に終わってしまった。
 どこかで抜き取られているのだろう。

 偽のI・Dカードを使ってまで、汽車賃を節約していると言うのに、日本に到着しない土産物や切手代でかなりの出費になっている。
 これではせっかくギリシャに到着しても、とんぼ返りするはめになってしまっては勿体無いではないか。
 何しろ、切手代が何日分もの宿泊代になるという国だから、もっと考えて使わなくては後悔するはめになってしまうだろう。

 午前九時、ホームに入ってきた列車は、カラチ発のペシャワール行き列車なもので、もう満席状態。
 車両の中を空席を探して歩き回っていると、何とか座れそうな車両を見つけて乗り込もうとして、ひょっと上を見てビックリ、なんと”Lady’s”と書かれているではないか。
 どうりで空いている訳だ。
       俺 「女性専用列車がこの国にあるとは、知らなかったなー!」
 その上、セカンドクラス(二等車)はほんの一部で、ほとんどが三等車だ。
 それでも一時間ほど立っていると、何とか座らせてもらうことができた。

 この列車でもバクシーシが横行している。
 日本でなら”なぜ?貧しい人たちに、ちょっとくらい恵んでやったら良いのに・・・・?”とお叱りを受けるかも知れませんが、ここはパキスタン。
 一人に構うとなると、移動中パキスタン全土の乞食を相手にしなくてはならず、冷たいようだが押し寄せてくるバクシーシの大波を跳ね返し続けることになる。

                   *

  ラホールを出発してからの景色はインドとそれほどの違いはない。
 ただ、人の服装とか建物の様子が少しづつ違って見えてくる。
 パキスタンはほとんど(80%)がイスラム教であり、女性のほとんどが黒い布を頭からスッポリ被ってしまっている。
 1947年8月、イギリスから独立して、その後クーデターがあり、1971年12月印パ戦争、東パキスタンの独立(今はバングラデシュと言う国に名前を変えている。)と、大事件が続き今でもインドとのカシミール国境紛争やカイバル峠下のパタン族の独立運動などを抱え、政情不安定な若い国なのである。

 ラワルピンジーが近づくにつれ、土や岩の露出した山肌がすぐ近くに迫り、列車は丘陵地に入った。
 何かの写真で見たことがある、アメリカのグランド・キャ二オンの小型版渓谷が、進行方向左側に見えて来た。
 列車は山の中腹付近を走っている。
 かなり高い山が回りに見えてきた。
 北に見える高い山が紛争の続く、カシミール地方の山なのかも知れない。
 その近くに、パキスタンの新しい首都、イスラマバードが今着々と建設中だというが、本当だろうか見えてこない。

 目を左に向けると、渓谷に人の姿が見える。
 それも一人や二人ではなさそうだ。
 垂直に切り立った渓谷の中腹に、いくつもの穴がポッカリと口を開けているのが見えた。
 その穴から人の姿が見えてきたのだ。

       俺 「まさか???人が住んでるの???」

 ええ?住居?それともあれはお墓?
 信じられない光景が見えてきた。
 右に見える山肌には、山羊・牛・ラクダが時々姿を現す。
 山羊などは群れをなし、急な斜面を駆け上っていくのである。

       俺 「こんなところで育った山羊の肉は、さぞかし美味いだろうな!」
       青年「君はどうしてここいらが砂漠のようになったのかわかるかい?」
       俺 「いえ??」
       青年「あの山羊が原因なんだ。」
       俺 「ええ?山羊が??」
       青年「山羊と言うやつは、草の茎とか葉っぱばかりでなく、根っこまで食べてしまうんだ。それで草木がほとんど無くなってしまったという訳さ。」
       俺 「へ~~~~!そうなんすか。」

 ラワルピンジーを過ぎると、車両に人が少なくなり、落ち着けるようになってきた。
 大分列車に慣れてきたせいか、人の目も気にならなくなっていた。
 ニ三のトンネルを過ぎると、武装した兵隊が多く見られる様になって来た。
 皆手に、銃を握り締めている。
 只今戦争の真っ只中と言う感じだ。
 通過する駅には、軍用列車なのだろう、装備を積み込んだジープや武器、それに兵士達も相当数乗り込んでいるのが見える。

 雑多な民族の集まりでできた国。
 この後、何ヶ月かして、クーデター事件がまたもや起こって、かなりの死傷者が出る事になるのであるから、やばかったと言う事だ。
 陸続きの国境を持つ国というのは、争いが尽きない。
 我々島国根性と言われようとも、祖国が島国で良かったなー・・・と思わずにはいられない。

 軍用列車とすれ違うと、兵士達はすれ違う列車に向かって、笑いながら手を振ってくる。
 皆若い青年達である。
 ほとんど俺と同じ年の青年達だろう。
 そう思うと、自分の置かれている立場が、どんなに恵まれているか分かろうと言うものだ。


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